発達障がい者への効果的な就労支援に関する調査

2017.8.17

  • 雇用
  • 意識調査
  • 障がい者
対象障がい:
  • 発達

実施の背景

就労移行支援事業所の事業所数は年々増加しており、現在では全国に3000カ所を越す事業所が存在しています。最近では、発達障がい者の利用が増加する一方で、就労移行支援事業所の現場では対応が追いつかず、発達障がい者への支援に苦慮し、試行錯誤で支援を行っている状況が考えられます。
そこで、株式会社ゼネラルパートナーズの就労移行支援事業所を利用した発達障がい者が事業所で受けた支援内容と、その支援内容に対する本人のサービス満足度および自尊感情との関係性を解明するためにアンケート調査を実施しました。

  • 対象者

    株式会社ゼネラルパートナーズ運営の
    就労移行支援事業所の利用者・退所者

  • 実施方法

    インターネット調査

  • アンケート期間

    2017/3/13~3/20
    有効回答者数:32名

<アンケートからの考察 調査Reportより一部抜粋> [1] 就労移行支援事業所における「効果的な支援内容」を受けたと感じている発達障がい者のサービス満足度は、高い傾向がみられた。 ※「効果的な支援内容」に関しましては、「質問項目」の箇所をご参照ください。 [2] 「効果的な支援内容」の5カテゴリの内、カテゴリ①「就労実現のための本人と支援者の協働的本人理解」、カテゴリ②「希望実現のための本人・企業・支援者の協働的本人/企業理解」、カテゴリ④「本人の自己肯定感/自己効力感を高めるための協働」、カテゴリ⑤「働くイメージとライフスキルの向上」の支援を受けた発達障がい者のサービス満足度は高い傾向を示した。 [3] 「効果的な支援内容」のカテゴリ④「本人の自己肯定感/自己効力感を高めるための協働」、カテゴリ⑤「働くイメージとライフスキルの向上」の支援を受けたと感じている発達障がい者は、自己効力感が高い傾向がみられた。 ※調査結果の詳細は、右上の「調査Reportのダウンロード」より資料をダウンロードし、ご覧ください。

就労移行支援事業所数の推移および利用者の障がい種別の変化

質問項目

以下に示した5つのカテゴリ、および22項目(本調査では、就労移行支援事業所における「効果的な支援内容」と記述)について、利用者がこれらの支援内容を受けたと感じているか調査しました。

◆ カテゴリ① 就労実現のための本人と支援者の協働的本人理解

  • Q1 支援機関の職員が、あなたの障がいの特性を把握している
  • Q2 面談などを通して、あなたの希望や状況について話を聞き、お互いの考えを話し合う
  • Q3 支援機関内で多様な訓練メニューを実施し、また3ヶ所以上で実習を設定したうえで、それらの体験を一緒に振り返る
  • Q4 状況や目標に合わせた課題が設定され、その達成度合いやプロセスを一緒に振り返る
  • Q5 他の利用者・家族・主治医・実習先・職場の同僚から、あなたの様子や状況を把握し、あなたとその内容を共有する

◆ カテゴリ② 希望実現のための本人・企業・支援者の協働的本人/企業理解

  • Q6 あなたが就職したい企業に対し、障がい者雇用の経験の有無や、実務上関わる人が誰かを確認し、あなたと共有する
  • Q7 働き続けることができる職場かどうかを、あなたや、あなたが就職したい企業と一緒に検討する
  • Q8 あなたと就職先企業との相互理解を促進するための計画を、あなたと企業と一緒に立てる
  • Q9 就職先企業において、部署や業務を複数体験し、あなたに合った職場環境を一緒に考える
  • Q10 就職後に職場で葛藤が生じた際は、その葛藤が生じた過程をあなたと企業と一緒に振り返り、解決を試みる

◆ カテゴリ③ 希望実現のための本人・家族/関係者・支援者の協働的本人理解

  • Q11 必要に応じてあなたの家族や他の支援機関と連絡を取り合い、相談にのる
  • Q12 あなたの家族や他の支援機関に、あなたの就職についての考えなどを聞き取る
  • Q13 あなたと家族と一緒に、支援計画の作成・振り返りを行う
  • Q14 あなたの家族に、あなたの障がいの特性や、得意/不得意な環境・配慮事項を伝える
  • Q15 あなたの家族に、相談にのることができると伝える

◆ カテゴリ④ 本人の自己肯定感/自己効力感を高めるための協働

  • Q16 支援の際に、あなたと合意形成を図りながら、安心感のある雰囲気を作る
  • Q17 成功体験や達成感が得られる場面を多く設定する
  • Q18 基本的に支援全体を通して肯定的な言葉を使用し、良いところを評価する
  • Q19 支援機関の職員のみではなく、家族や関係者とあなたの成功体験を共有する
  • Q20 あなたと境遇が近い事業所の先輩などの成功体験を、あなたへ共有する

◆ カテゴリ⑤ 働くイメージとライフスキルの向上

  • Q21 働くことは、あなたや社会にとってどのような意義があるのかを一緒に確認する
  • Q22 職場の人や家族・親戚・友人などの付き合い方や、お金の使い方、余暇の過ごし方などを一緒に考える

各カテゴリとサービス満足度の相関関係

「効果的な支援内容」×サービス満足度
「効果的な支援」と「提供された支援への満足度」の相関係数N=32

提供された支援への満足度
「効果的な支援サービス」を受けた .624(*)

*は,統計的検定の結果,関連があることを示しています

各カテゴリとサービス満足度の相関関係

カテゴリ①〜⑤×サービス満足度
カテゴリ①〜⑤と「提供された支援への満足度」の相関係数N=32

提供された支援への満足度
カテゴリ①
「本人と支援者の協働的本人理解」
.676(*)
カテゴリ②
「本人・企業・支援者の協働的本人/企業理解」
.638(*)
カテゴリ③
「本人・家族/関係者・支援者の協働的本人理解」
.198
カテゴリ④
「本人の自己肯定感/自己効力感を高めるための協働」
.494(*)
カテゴリ⑤
「働くイメージとライフスキルの向上」
.389(*)

*は,統計的検定の結果,関連があることを示しています

各カテゴリと自己効力感の相関関係

カテゴリ①〜⑤×自己効力感
カテゴリ①〜⑤と自己効力感の相関係数N=32

自己効力感
カテゴリ①
「本人と支援者の協働的本人理解」
.308
カテゴリ②
「本人・企業・支援者の協働的本人/企業理解」
.190
カテゴリ③
「本人・家族/関係者・支援者の協働的本人理解」
-0.126
カテゴリ④
「本人の自己肯定感/自己効力感を高めるための協働」
.371(*)
カテゴリ⑤
「働くイメージとライフスキルの向上」
.419(*)

*は,統計的検定の結果,関連があることを示しています

アンケート回答者

対 象 者   : 株式会社ゼネラルパートナーズの就労移行支援事業の利用者および退所者(有効回答数32名)
アンケート期間 : 2017/3/13~3/20
実 施 方 法 : インターネット調査

<発達障がい種別>

<就労移行支援事業の利用経験>

<就労経験の有無>

「魅力的なサービスと効果的な支援モデルの提供」

2006年に導入された就労移行支援事業の事業所数は年々増加の傾向にあり、現在では全国に約3000カ所の事業所が存在している。そのため、特に都市部を中心に、多くの事業所が存在している地域では利用者の確保に苦慮するケースも散見される。就労移行支援事業所は、その運営を維持するために他の事業所との差別化を図り、魅力的な支援内容を提供することで利用者から選ばれる事業所にならなければならない。このようなことも関連してか、特定の障がい種別に特化した支援を提供する就労移行支援事業所も出来始め、特に、発達障がいのある人への支援が注目を集めており、発達障がいのある人を対象とした就労移行支援事業所が次々に開設され始めている。

このような状況下で、本調査が取り組んだ「発達障がい者への効果的な就労支援(以下、効果的な支援内容と記述)」についての検討は大きな意義があり、重要な知見と考えられる。本調査から得られた知見は大きく次の2つである。

1つ目は、「効果的な支援内容」と「利用者のサービス満足度」との関係である。本調査では、「効果的な支援内容」として設定した5カテゴリ、22項目のほとんどが「利用者のサービス満足度」との間に正の相関関係があることを明らかにし、利用者と支援者や企業などが「お互いの考えを話し合う」、「一緒に検討する」、「一緒に振り返り、解決を試みる」ことが「利用者のサービス満足度」を高めていくことと考察している。

2つ目は、「効果的な支援内容」と「利用者の自己効力感(自尊感情)」との関連である。本調査では、「効果的な支援内容」として設定した5カテゴリのうち、カテゴリ④「本人の自己肯定感/自己効力感を高めるための協働」、カテゴリ⑤「働くイメージとライフスキルの向上」の支援を受けた人ほど「利用者の自己効力感(自己肯定感)」との間に正の相関関係があることを明らかにし、「利用者への肯定的なフィードバック」や「働く意義の確認」が「利用者の自己効力感(自尊感情)」を高めていくことを結論付けている。

これらは、冒頭に述べた「魅力的なサービスの提供」に貢献し得る知見であり、また、近年注目を集めている「発達障がいのある人」を対象にした就労移行支援事業所に1つの効果的な支援モデルを提供する知見であるといえる。

一方で、「効果的な支援モデルの提供」を想定したとき、「効果的な支援内容」と「利用者の就職」「就職後の定着」との関連性が重要であると考えられる。就労移行支援事業は限られた利用期間のなかで、「一般雇用への就労移行」やその後の「安定就労」を目指すという明確なゴールをもって導入されたプログラムである。本調査で用いられた「効果的な支援内容」が、真に「効果的」であるためには、「利用者の就職」や「就職後の定着」に対して有効に機能していなければならない。これらについては、今後、引き続きの体系的な調査が実施され、「効果的な支援内容」と「利用者の就職」「就職後の定着」との関連を明らかにし、全国の実践現場へと公表されることを期待している。

新藤 健太 氏

新藤 健太

群馬医療福祉大学 社会福祉学部 助教

日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科博士前期課程修了後、同大学院社会福祉学研究科博士後期課程単位取得。修士(社会福祉学)。国立障害者リハビリテーションセンター学院・茨城キリスト教大学非常勤講師、日本社会事業研究所共同研究員を経て、現在、群馬医療福祉大学社会福祉学部助教として勤務。
就労移行支援事業における効果的なプログラムモデルの形成、実施・普及について、プログラム評価の理論と方法論を活用した研究を行っている。

<主な研究業績>

新藤健太・大島巌・浦野由佳・ほか(2017)「障害者就労移行支援プログラムにおける効果モデルの実践への適用可能性と効果的援助要素の検討~全国22事業所における1年間の試行的介入研究の結果から」『社会福祉学』58(1),57-70.

新藤健太・大島巌・植村英晴・ほか(2016)「効果的な障害者就労移行支援プログラムの継続的改善と実施・普及に関する評価支援ネットワークの構築~地域で展開するEBP技術支援センターの機能と役割に注目して」『日本社会福祉学会第64回秋季大会抄録集』257-258.ほか

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