精神障がい者の入社後の相談体制に関する再分析

2016.10.18

  • 雇用
  • 意識調査
  • 企業
対象障がい:
  • 精神

実施の背景

精神障がい者の新規求職申込件数および就職者数は年々増加していますが、一方で、多くの企業が入社後の定着に課題を感じているようです。こうした中、2015年9月に実施した『精神障がい者の入社後の相談体制に関する調査』によれば、「社内に障がい者が相談しやすい雰囲気がある」という企業ほど、「精神障がい者の定着が上手くいっている」という傾向が見られました。そこで、同調査のデータをもとに、相談しやすい雰囲気を作るためには何が必要かを明らかにするため、再分析を実施しました。

  • 対象者

    企業(障がい者採用ご担当者)

  • 実施方法

    インターネット調査

  • アンケート期間

    2015/9/8~9/17
    有効回答者数:113名

<研究結果のサマリー> [1] 障がい者が相談しやすい雰囲気があると回答している企業ほど、以下の2つの取り組みを積極的に行なっている ・人事や上司による面談を『定期的に』実施している
・支援機関の職員による職場訪問を活用している [2] 人事や上司との面談を『定期的に』実施している企業の方が、『期間は定めず都度』実施している企業や、実施していない企業よりも、支援機関の職員による職場訪問を積極的に活用している傾向がある [3] 支援機関の職員に求めることとして、以下の2つの支援をあげる企業が多い ・健康管理や生活リズムの構築に関する助言
・人間関係や職場でのコミュニケーションを改善するための支援 ※より詳細な調査結果については、「調査Report」をご覧ください

■再分析の内容
社内の相談体制の一つに「人事や上司による面談」が、社外の相談体制の一つに「支援機関の職員による職場訪問」があります。
これらへの取り組み方が、障がい者が相談しやすい雰囲気を作るうえで、どのように関係しているのかについて分析しました。

再分析の内容

サマリー[1] :「相談しやすい雰囲気」と「人事や上司による面談」「支援機関の職員による職場訪問」の相関係数

相談しやすい雰囲気がある
人事や上司による面談を『定期的に』実施している .249 (※)
支援機関の職員による職場訪問を活用している .253 (※)

※は、5%水準で有意

「人事や上司による面談」「支援機関の職員による職場訪問」について、障がい者が相談しやすい雰囲気との相関分析を実施しました。その結果、人事や上司との面談を『定期的に』実施している、および、支援機関の職員による職場訪問を活用している、という回答のいずれにおいても正の相関が見られ、相談しやすい雰囲気があると回答している企業ほど、これらに取り組んでいることが分かりました。
これらの結果は、精神障がい者が相談しやすい雰囲気を作るためには、相談の場の積極的な提供が有効であることを示唆します。障がい者からの相談を待つという体制ではなく、課題の有無に限らず『定期的に』障がい者との面談の場を設定することが効果的だと言えます。
また、社外の支援機関の職員による職場訪問が「相談しやすい雰囲気」に繋がっていることからも、背景として、精神障がい者が職場での困り感を主体的に相談することの難しさがうかがえます。

サマリー[2] :「人事や上司による面談」の実施状況と「支援機関の職員による職場訪問」の活用状況との多重比較

障がい者総合研究所

※は、5%水準で有意

「人事や上司による面談」の実施状況と「支援機関の職員による職場訪問」の活用状況について多重比較を実施しました。その結果、面談を『定期的に』実施している企業の方が、『期間は定めず都度』実施している企業や、実施していない企業よりも、支援機関の職員による職場訪問を積極的に活用している傾向が見られました。このように、社内で相談できる体制を作っている一方で、社外にも相談できる体制を作っていることを鑑みると、支援機関の職員による職場訪問を、社内の相談体制の補完として活用しているものと思われます。

サマリー[3] :「支援機関の職員による職場訪問」における支援の必要の有無

サマリー[2]の結果を踏まえ、企業が支援機関の職員による職場訪問に何を求めているのかを分析しました。その結果、「健康管理や生活リズムの構築に関する精神障がい者への助言」「人間関係や職場でのコミュニケーションを改善するための支援」を必要と考える企業が多かった一方で、「職場の障がい者への理解や配慮を促すための支援」「仕事の進め方に関する精神障がい者への助言」「仕事内容の設定や指導方法に関する助言」を必要だと考える企業は半数を下回りました。このことから、社外の支援機関に対しては、社内だけでは対応しにくい「健康や生活面でのアドバイス」や「第三者の立場での職場内の人間関係やコミュニケーションの調整」などが求められているものと推察されます。
以上の結果より、相談体制については、社内・社外のどちらか一方のみあれば良いということではなく、社内での定期的な面談を軸とし、補完として社外の支援機関による面談を活用することが、相談しやすい雰囲気を作り、職場定着へつなげていくために重要だと思われます。

研究協力者紹介

日本社会事業大学大学院 社会福祉学研究科 博士後期課程 新藤 健太

大学院で自身の研究に取り組みながら、大学の研究班に所属している。研究班では、欧米の社会プログラム領域で発展してきたプログラム評価の理論と方法論を用い、就労移行支援事業における効果的な支援モデル(効果モデル)の構築に関する研究に取り組んでいる。

<主な業績>
・新藤健太,植村英晴,大島巌,他:効果的な障害者就労移行支援プログラム形成に資する評価人材を介した支援ネットワークの構築-実践家参画型評価における実践家評価ファシリテータの機能と役割に注目して,日本社会福祉学会第62回秋季大会,2014 ほか

日本社会事業大学大学院 社会福祉学研究科 博士後期課程 浦野 由佳

発達段階に応じた課題をご本人と一緒に乗り越えるという臨床を行なっている。また、彼らの将来を展望できるよう、困難を抱える方が就労するためにはどのような要因があるのか大学院で研究を行なっている。特に障害者就労移行支援事業所における効果的な発達障害者支援について研究している。

<主な業績>
・浦野由佳,植村英晴,大島巌,他:効果的障害者就労移行支援プログラムの実施・普及に資する評価支援ネットワークの有効性に関する研究-評価支援ネットワークが行う効果的プログラムモデルの実施支援・評価支援に注目して-」日本社会福祉学会第63回秋季大会,2015

明らかになった相談体制・外部連携の重要性と今後の調査への期待 ~学識者からのコメント~

2018年より精神障がい者が法定雇用率の算定に加えられる。法定雇用率が上がるのは必至であり、他の障がいに比べて難しいとされる精神障がい者の雇用も進めなければ法定雇用率をクリアすることはできないであろう。
障がい者雇用を進める企業にとって、自社に合った障がい者を雇用することも重要であるが、雇用した障がい者が職場になじみ、勤め続けることも同様に重要である。せっかく雇用した障がい者が辞めてしまうと、新規採用や育成のコストがかかってくる。それだけではなく、法定雇用率をクリアできなくなる恐れもある。しかし、精神障がい者の場合、職場定着が難しい傾向も指摘されており、どのような取り組みが定着に効果的かを探ることは、重要な意味を持つ。
今回の調査は、その課題にスポットを当て、相談しやすい雰囲気と精神障がい者の定着とが相関すること、外部連携による補完が意味を持ちそうであること、定着につながりそうな外部連携における相談内容が明らかにされており、非常に意味がある調査となっている。もちろん、社内の相談体制を整えた方が良いこと、および、外部連携も重要であることはイメージしやすい。ただ、それをデータで示している点が重要である。このような裏付けがあるからこそ、取り組みを進められるのである。
ただ、気になる点もある。サマリー[1]で「相談しやすい雰囲気」と「人事や上司による面談実施」「支援機関職員の職場訪問」との相関を取っており、有意ではあるが、係数が0.25前後と低い。雰囲気に影響を与える他の要因が存在する余地が推測される。
この点で言えば、相談しやすい雰囲気は、同僚との関係も関わるのではないだろうか。たとえば、「分からないことがあったら、いつでも誰でもいいから声をかけて」は、かえって不親切である。結局、誰にも声をかけられず、疎外感を感じて辞めてしまうこともありうる。ここにブラザー/シスター制の意味がある。
また、面談を行なう企業が、支援機関の職員の訪問を補完的に使っているという点も参考になる。ただ、障がい者に対する面談だけではなく、定着につながる社内の体制や取り組みをどのように整えるかといった企業側の課題に対応する相談体制も重要である。その点の連携の意味も遡及できると良かったように思われる。今後のさらなる調査に期待したい。

影山 摩子弥 氏

影山 摩子弥

横浜市立大学 都市社会文化研究科

教授

静岡県浜北市(現 浜松市)生まれ
早稲田大学商学部卒

≪現職≫
横浜市立大学都市社会文化研究科教授
横浜市立大学CSRセンター長
≪専攻≫
経済原論、経済システム論、地域CSR論
≪著書≫
「なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?」(中央法規出版)
「地域CSRが日本を救う」(敬文堂)
「世界経済と人間生活の経済学」(敬文堂)
「CSR経営革新」(共著、中央経済社)など

研究・教育の傍ら、国内外の行政機関・企業・NPOなどからの相談へ対応しているほか、自治体のCSR認定制度「横浜型地域貢献企業認定制度」「宇都宮まちづくり貢献企業認証制度」、日本初の業界CSR認定制度「全日本印刷工業組合連合会CSR認定制度」の設計を手掛けるなど、幅広く活躍している。

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