障がい者雇用における差別禁止・合理的配慮に関する調査

2016.8.23

  • 雇用
  • 意識調査
  • 障がい者
対象障がい:
  • 身体
  • 精神
  • 発達
  • 知的

実施の背景

2016年4月1日より「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」の2つの法律が施行(以下、法改正と呼ぶ)されました。この2つの法律はいずれも障がい者への差別の禁止や、合理的配慮の提供について定めたもので、「改正障害者雇用促進法」は雇用に関するもの、「障害者差別解消法」は雇用以外に関するものを対象としています。そこで、法改正から数ヶ月が経過し、法律への認知がどこまで進んでおり、特に雇用に関して実際にどのような変化が起こったかについて調査することで、法改正の効果と課題を明らかにしたいと考え、本調査を実施しました。

  • 対象者

    20~60代の障がい者

  • 実施方法

    インターネット調査

  • アンケート期間

    2016/6/6~6/15
    有効回答者数588名

<アンケートからの考察 ※調査Reportより一部抜粋> [1] 障害者差別解消法および改正障害者雇用促進法の施行について、認知している方は69%いるが、その内容まで理解している方は27%に留まっている 法改正について知っていたか(認知度)を確認したところ、「知っており、内容も理解している」は27%、「知ってはいたが、内容については理解していない」は42%であり、計69%が認知していました。一方、法改正の内容まで理解している方は27%に留まっており、法改正の事実そのものを「知らなかった」という回答も31%にのぼります。 [2] 今回の法改正によって、就職活動や就労において「差別を受けた」と感じることが少なくなった方は8%、企業へ配慮を求めやすくなったと思う方は14%であり、法改正の効果は未だ限定的である 障がい者雇用で就業されていた方々のうち、現職または前職で「差別を受けた」や「障がいへの配慮が無い」と感じたことが『あった』と回答した方々について、法改正以降にどのような変化があったかを確認したところ、「差別を受けた」と感じることが少なくなった方が8%、企業へ配慮を求めやすくなったと思う方が14%となりました。これは、逆に8割以上の方が変化を感じられていないということであり、今回の法改正による効果は未だ限定的だと言えそうです。 [3] 企業へ配慮を求めやすくなったと思う方ほど、法改正について、内容まで理解している傾向があり、認知経路では「勤務先の人事・上司・同僚」など雇用主が介在している割合が高い 法改正後、企業へ配慮を求めやすくなったと思う方では、法改正について「知っており、内容も理解している」という回答が48%と半数近くを占めました。また、法改正の認知経路では、企業へ配慮を求めやすくなったと思う方は、「勤務先の人事・上司・同僚」を通じて法改正を知ったという方が20%いる一方、企業へ配慮を求めやすくなったとは思わないという方については、その割合は4%に留まっています。 ※より詳細な調査結果については、「調査Report」をご覧ください

法改正(障害者差別解消法および改正障害者雇用促進法の施行) については、ご存知でしたか?

知っており、内容も理解している
知ってはいたが、内容については理解していない
知らなかった

現職または前職で、「差別を受けた」や「障がいへの配慮が無い」と感じることはありましたか?

※「障がい者雇用で就職した」または「途中から障がい者雇用になった」方のみ抽出

頻繁にあった
時々あった
ほとんど無かった
全く無かった

法改正により、就職活動や就労において、「差別を受けた」と感じることは少なくなりましたか?

※現職または前職で、「差別を受けた」「障がいへの配慮が無い」と感じることがあった方のみ抽出

とても少なくなった
まあまあ少なくなった
あまり変わらない
全く変わらない
就職活動や就労をしていないので、特に感じることは無い

法改正により、就職活動や就労において、企業へ配慮を求めやすくなったと思いますか?

※現職または前職で、「差別を受けた」「障がいへの配慮が無い」と感じることがあった方のみ抽出

とても思う
まあまあ思う
あまり思わない
全く思わない
就職活動や就労をしていないので、特に感じることは無い

【法改正により感じた変化】と【法改正の認知度】の関係

【法改正の認知経路】と【法改正による変化】の関係

アンケート回答者

アンケート期間: 2016年6月6日~6月15日
有効回答者数: 588名(20~60代の障がい者)

20代
30代
40代
50代
60代以上
身体障がい者手帳
精神保健福祉手帳
療育手帳/愛の手帳
未取得
障がい者雇用で就職した
入社時は障がい者雇用ではなかったが、
 途中から障がい者雇用になった
障がい者雇用ではない
その他

当事者からみた差別禁止と合理的配慮 ~学識者からのコメント~

本調査は、2016年4月に施行された「障害者差別解消法」と「改正障害者雇用促進法」に関する当事者の認知度、差別を受けた(ている)感、及び合理的配慮が受けやすくなったのか、なったとすればその内容について、アンケート調査によって明らかにしたものである。施行直後になされた調査であることから、数年後に同様の調査を実施して比較検討すれば、我が国の障がい者雇用が前進しているか否かの実態を知ることができる根拠の一つとなり得よう。
今回、調査対象者である本研究所のアンケートモニター登録者588名のデータを分析した結果明らかにされたのは、主に以下の3点である。1.法改正の認知度は約7割とはいえ、内容まで理解していたのは約3割。2.法改正による差別を受けている感の減少は1割未満、合理的配慮を受けやすくなったと感じていたのは1.5割弱。3.合理的配慮が受けやすくなったと感じていたのは、法改正の内容をよく理解できていた当事者で、認知経路には勤務先の雇用主が介在、である。
以上の結果が示すものは、今回の調査対象者が雇用情報に対する意識の高い層であったにも関わらず、それでもなお情報格差の影響を受けていたことである。例えば、法改正の入手元としてネットニュースが43%と1位であったにも関わらず内容を理解していた順位は8位へと下がっていた。一方、勤務先の人事や上司から情報を入手した順位は7位でも、内容の理解は2位であった。このことから、重要な情報はやはり人を介してであることが示唆されたと言えよう。
いずれにせよ、障がい者雇用を促進するためには、障がい当事者と雇用する側双方の話し合いと協業が必要不可欠である。その意味でも本調査は貴重な資料であり、今後はさらに障がい別、業種別のクロス分析や情報の入手元別内容の掘り下げ、および自由記載の再整理を行うことで、当事者と雇用側双方のさらなる協業に繋げていくことができよう。

菊池 恵美子 氏

菊池 恵美子

帝京平成大学健康メディカル学部長・健康科学研究科作業療法学専攻長・学科長、教授。博士(医学)。作業療法士。所属学会:日本職業リハビリテーション学会、日本作業療法士協会、日本リハビリテーション医学会。主な研究領域は高齢・障がい者の就労支援で、2001年から2007年まで日本職業リハビリテーション学会長。現在は作業療法教育において後輩の育成にあたっている。主な著書:職業リハビリテーション学改訂第2版、協同医書出版、2006.着る装うことの障害とアプローチ、三輪書店、2006.英語で学ぶ作業療法、(株)CBR、2011.身体障害の作業療法(共訳)、協同医書出版社、2014 他

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