障がい者雇用への取り組みに関する事例研究

2016.6.22

  • 雇用
  • 事例研究
  • 企業
対象障がい:
  • 身体
  • 精神
  • 発達
  • 知的

実施の背景

2016年1月に当研究所が発表した「~2018年の改正障害者雇用促進法の施行に向けた企業動向~ 法定雇用率の引き上げの可能性に関する調査」によれば、多くの企業が法定雇用率を達成するための工夫を重ねていることが分かりました。特に、法定雇用率を達成している企業では、その半数が「採用した障がい者の職場配置や勤務条件の調整」「選考時の障がいや能力・適性の把握」において工夫していると回答する一方、法定雇用率を達成していない企業においては、これらを課題としてあげる声が多くなっています。そのため、上記2点について、特徴的な取り組みを行う企業の事例を紹介することで、その課題解決の糸口を提供できればと思い、本調査を実施しました。

2016年1月「法定雇用率の引き上げの可能性に関する調査」株式会社ゼネラルパートナーズ 障がい者総合研究所調べ

事例の概要

事例 1「採用した障がい者の職場配置や勤務条件の調整」において特徴的な取り組みをしている企業

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株式会社 マイナビ

障がい者が主に働く『オフィスセンター』を立ち上げ、仕事内容や勤務条件の調整を柔軟に行なえる体制を構築

取り組みのポイント

  • 急速な事業成長にともない、障がい者雇用が追いつかない状況に
  • 社内各事業部から切り出した業務を請け負う『オフィスセンター』を立ち上げ、障がい者をメインで配置
  • 会社への貢献度やパフォーマンスを可視化するため、評価制度の整備にも着手

『オフィスセンター』の立ち上げと運用

障がい者雇用を進めるために『オフィスセンター』を設立

まずは背景として、弊社では従業員数がこの5年で急増したことにより、障がい者雇用が法定雇用率になかなか追いつかないという現状がありました。それに加えて、障がい者の法定雇用率が当時の1.8%から2.0%へとアップし、近い将来さらなるアップも見込まれているということで、早く何かしらの対策を打たねばならない状況でした。

一方、各部署に障がい者の受け入れを打診しても、なかなか進まないという状況が続いていました。従業員が急増しているということは、それだけ会社が成長期にあるということ。どの現場もすでに多忙を極めて・・・

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管理本部 採用統括部 部長 藤本 雄さん

管理本部 採用統括部
部長 藤本 雄さん

事例 2「選考時の障がいや能力・適性の把握」において特徴的な取り組みをしている企業

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サイトサポート・インスティテュート
株式会社

就労移行支援事業所から実習生を受け入れることで、
選考前から現場・障がい者がお互いの理解を深める機会を設定

取り組みのポイント

  • 事業の専門性が高く、知的障がい者の雇用に限界がある中、未開拓だった精神障がい者の採用に着手
  • 就労移行支援事業所などとの連携を強化、実習受け入れを開始
  • 面談用のアセスメントシートなど独自ツールを作成

理想の人材との出会いを求めて

従業員急増への対応のため障がい者雇用の新たなリソースを開拓

まずは大前提として、当社では2011年の4月に50名規模、9月には100~150名規模の吸収合併が続き、従業員数が急増しました。私自身も重度身体障がい2級なのですが、その当時の2012年に入社しています。

その後、障がい者雇用への取り組みを続けた結果、一度は法定雇用率の2.0%を達成した時期もありました。しかし、2015年に障がい者2名の退職が偶然重なるという事態が起きてしまったのです。退職理由としては、会社移転に伴う通勤困難を理由とした契約満了、組織改編に伴うグループ会社への転籍・・・

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事業企画本部人事総務グループ 堀江 奈穂子さん(社会福祉士)

事業企画本部人事総務グループ
堀江 奈穂子さん(社会福祉士)

考察

マイナビ社、サイトサポート・インスティテュート社の2社の事例から、障がい者雇用を成功させるためのポイントについて考察しました。

共通する障がい者雇用への課題の大きさ

両社に共通するのは、障がい者雇用を進めるハードルが高かった点です。サイトサポート・インスティテュート社はメインの事業内容が新薬の治験支援という専門的な領域のため、採用できる人材が限られてしまうという難しさを抱えていました。マイナビ社は事業の急拡大により、配属部署において、障がい者の受け入れが難しい状況が発生し、障がい者採用が進みづらくなりました。マイナビ社のように、人事部で積極的に採用活動を進めようとしても、配属部署で障がい者を受け入れる体制が整っていないため、選考が進まないというケースはよく遭遇します。

このような課題に対して、抜本的な戦略変更をされた点についても両社に共通します。課題解決のためには大きな舵取りが必要不可欠だったのかもしれませんが、高い視点で障がい者雇用に取り組んだことが成功を生んだといえるのではないかと・・・

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障がい者雇用の難しさの本質と成功要素 ~学識者からのコメント~

積極的に障がい者雇用に取り組もうとする企業は、同時に2つのことを成し遂げなければならない。1つは、障がいのある方に最大限の配慮を提供することであり、もう1つは、そのことによって全体の生産性を低下させることなく、企業の利益を実現することである。つまり、本来矛盾するかもしれない2つの目標(「障がい者への配慮」と「企業の利益実現」)が両立されなければならないところに、障がい者雇用に取り組む際の難しさの本質がある。障がい者雇用に取り組む企業関係者は、この点について日々奮闘されていることだろう。
このような中で、本調査が、抜本的な戦略で成功した2つの企業を事例として取り上げ、取り組みのモデルとして紹介したことは大変意義がある。1つめの事例では、障がい者が主に働く「オフィスセンター」を立ち上げて、「職場配置や勤務条件の調整」を組織的かつきめ細やかに行う取り組みが紹介されており、2つめの事例では、就労移行支援事業所からの実習生受け入れの仕組みを作り、「選考時の障がいや能力・適性の把握」を正確に行う取り組みが紹介されている。どちらの事例も障がい者雇用に有利な条件が整っていたわけではないにも関わらず、高い意識とこれらの抜本的な戦略で成功していると指摘している。
さらに考察では、2つの事例の共通点から「障がい者雇用に対する社内の意識改革」、「多面的な評価をもとにした採用活動」、「障がい者の成長促進・キャリアパス」を、障がい者雇用を成功させるために必要な3つの要素としているが、先行研究に照らし極めて妥当な結論である。
本調査が、障がい者雇用に奮闘している多くの企業関係者を、励まし勇気づけることを期待している。

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塩津 博康

長野大学 助教

ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了後、日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程単位取得。修士(社会福祉学)。医療法人社団慶神会PSW、高崎健康福祉大学などを経て、現在、長野大学社会福祉学部助教として勤務。重い障がいのある方に対する就労支援のあり方について、自身の実践経験と科学的な社会調査の方法論を活用し、普遍的な実践モデルを探究している。最近の研究業績に「障害者就労支援事業所の社会的企業化―新たな実践動向のモデル化の試み―」『社会福祉学』56(4),p.14-25.(2016)がある。

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